果敢賞 家の母は肌が弱かった
「ヘナのある風景」エッセイコンテストの果敢賞3作品の中に選ばれたのは、横尾千鶴様の「家の母は肌が弱かった」です。
肌が弱く、闘病中でもあった母がヘナ染めをするように。いつしか親子で染めあうようになっていく、やさしい風景が描かれています。
横尾千鶴様「家の母は肌が弱かった」
家の母は肌が弱かった。
祖母が癌の闘病中に毛染めをし、ひどくかぶれて家族のものを心配させたことがあるだけに、尚の事毛染めには慎重になっていた。
そんな母にアドバイスしてくれたのは近所の床屋の奥さんである。
以前は美容師をしていたその奥さんはヘアスタイルのアドバイスはもちろん地方の田舎に住む私たちに髪のお手入れの方法などを伝授してくれる言わば「ファッションアイコン」的存在の人であった。
その人が「ヘナっていう毛染めが自然由来で肌に優しいんだよ。」と言い、それから床屋に行くたびにヘナの毛染め剤で 母の白髪を染めてくれた。
今から30年も前の話であるから そのアンテナの良さは天下一品だった。
毛染め後の母の髪はつやつやと自然な髪色につんとしない香りがとても素敵であった。
すっかりヘナのファンになった私たち親子は今度は固形のヘナの染料を買ってきて二人で染めっこすることにした。
当時私はまだおしゃれ染めで美容院では気恥ずかしくて言えなかったちょっと冒険の色目を母に染めてもらった。
「ここが、あそこをもう少し。。。」あれこれ言いながらケープを付けた私達にはたとえようもなく優しい時間が過ぎた。
九月のある日、いつものように染めっこをした私達だったが、それから一週間もしないうちに母は突然天国に行ってしまった。
泣きすがる私の鼻孔を死の床の母の髪のヘナの香りがくすぐった。
私の大切な思い出の香りである。
※写真はイメージです。
エッセイの選評
(グリーンノートからのコメント)
今回ご応募いただいたエッセイには、大切なご家族にヘナをおすすめいただいたり、親子でご一緒に染めあった経験を書かれたものが多くございました。
白髪染めのヘナがそのように親子の間で共通の楽しみになり、また、ご家族との大切な思い出になっていくことには、ヘナの力やメーカーの思いなどといったことを超えた家族との絆が感じられてどれも心を動かされるものばかりでした。
その中でも、横尾様の「うちの母はー」は、お母様と染めあった思い出や、お母様との別れ、そしてお別れの際のお母様の髪の香り―淡々とした簡潔な言葉を選ばれながら、しかし確実に浮かぶ一コマ一コマの情景に、心を打たれるものがございました。
お母様との確かなきずなが感じられたからと思っております。敢闘賞に選ばせていただきました。